2025年06月09日

あまりにもあっけなく

ダーリン退院の翌週から、土日のみの営業で漁師食堂の勤務が始まった。
視力が回復したとはいえ、運転できる状態とは言えないので私が送迎している。
この日、5月31日も店にダーリンを送り、帰宅して家事をのんびりこなしていた。
今年もカリカリ梅を漬けようと、小梅を洗ってアク抜きのため水に浸けたり、
干していたスギナをお茶にするために細かく切ったりなんかして。
猫たちは「何してるの?」と相変わらず邪魔をしに来て、サンルームを出禁になった。
退屈になって「お外、お外」が始まったので、いつものように外に出してやった。

そんなこんなをしているうちにお迎えの連絡が来た。
外に出ると、ねぇねが庭から走ってきたので「おうちに入る?」と水を向けたが
まだおうちには入りたくないようだった。
外出時に猫たちを外に出したままにはしたくなかったが、
「早く迎えに行かなきゃ」と気が急いた私は、そのまま店に向かった。
車庫を出て家の前を通り過ぎる時、ねぇねはサンルームの前に寝そべって見送っていた。


二人で帰宅しておうちに入る前に、猫たちを呼んだが、
どこで遊びに夢中になっているのか姿を見せず、
疲れ切ったダーリンはおうちに入るなり横になってしまった。
その間に私は晩御飯の支度を始めた。
おうちに入って30分位経った頃だろうか、通りかかったトラクターから
いつも援農でお世話になっている農家さんが降りてきた。
何かしら、と思って玄関に出ると、
「いやぁ・・・かわいそうに、猫、轢かれてるよ」と。

慌てて外に飛び出すと、倉庫から道路を渡ったあたりに茶色い姿が。
「ねねちゃん!ねねちゃん!」
取り乱して大声で叫びながら走っていくと、
道路を血に染めて動けなくなっている ねぇねが横たわっていた。
右足がありえない方向に開いており、お腹の辺りも血で汚れていた。
慌てて倉庫前に置いてあった野菜コンテナを持ってきて
声を掛けながらコンテナへと抱き上げると、ねぇねがビクビクッと痙攣するように動いた。
ダーリンが寝ている部屋の窓下で「ねねが、ねねが、車に轢かれた!!」と叫ぶと、
ダーリンも慌てて飛び起きてきた。
玄関にねねを入れると、「獣医さんに電話して!」とダーリンが叫ぶ。
「どうしましょう、どうしましょう、車に轢かれて、心音もないんです!」
「午後7時まで開院しているので来れますか」
「でも、ここから1時間はかかります、心音も無いのに大丈夫なんでしょうか!」
「病院ではどんな状態でも受け入れますので・・・そちらのご判断で・・・」
取り乱した会話をしながらも、私は分かっていた。
ねぇねは、もう死んでしまっていることを。


電話を掛けている間、ダーリンの呼びかけにもビクッと反応したと言うが、
そこから先、ねぇねが動くことは無かった。
居間に安置し、二人でねねちゃん、ねねちゃん、と何度も撫でたが
少しずつ、少しずつ、ねぇねは冷たくなっていった。

途中クロが、横たわる ねぇねの顔にチョイチョイと手を出したが、
反応しないことが不思議そうだった。
くんくんと匂いを嗅ぎ、お腹の辺りを一度舐めたが、「おかしいなぁ」という表情で離れる。
何度かコンテナに足を踏み入れて ねぇねの匂いを嗅ぐものの、
もう手を出すことも、舐めてあげることもしなかった。
まるで、「そこに居るのは ねぇねの姿をした ねぇねではない者」と知っているようだった。

冷たくなったと言っては泣き、硬くなってきたと言っては泣き、
あの華奢でしなやかで生命力に満ち溢れていた ねぇねが
このカラダから離れていってしまったことを ひとつひとつ思い知らされながら
私達はただただ泣き続けた。


うちの子になってくれてからまだ10ヶ月、
たった一歳で、あまりにもあっけなく ねぇねは逝ってしまった。

ラベル: 交通事故
posted by BERA at 23:04| Comment(2) | 猫のいる生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年05月29日

いつの間にか初夏

PCの電源が入らなくなって半月。
その間にどんどん景色が変わっていく。

満開だった庭の桜が散った。
猫の出入りのために玄関ドアを細く開けているのだが、
玄関フードに虫ではなく桜の花びらが入り込んでいるのを見て嬉しくなった。

家の前の田んぼもトラクターで起こしたと思ったら
水を張り、代掻きをし、「ああキレイな水鏡」と感動しているうちに田植えが終わった。

向かいのお山はみるみる新緑が濃くなり、
ちょっと前まで針葉樹のツンツンした濃い緑ばかりが目立っていたのに、
広葉樹の明るい緑色が優勢になった。

雪解けの増水で怖いくらい轟々と音を立てていた厚田川の川音が聞こえなくなり、
朝は鳥のさえずりとガァガァ鳴く鴨の声、
夜はカエルの大合唱にとってかわった。


ダーリンの入院で気持ちがアタフタしていたせいか
日々の変化に「あっ」と思っても、噛み締めるように味わってはいなかったかもしれないなぁ。
ただでさえ駆け足で行ってしまう発足の春が、
去年より爆速で過ぎ去ってしまったような気がする。


そんな中、最近の日課は畑仕事だ。
旺盛に育って行く自生の草たちの勢いに押されながらも
毎日毎日 草刈りをして、畝に敷き詰めている。
不耕起栽培の自然農を目指してはいるのだが、今年は去年作った畝をちょっとだけ鍬を入れてみた。
去年と全く違った感触に、土が育っていると実感した。
スコップを入れると宿根草の根がびっしりと絡み合って、カーペットを剥がすようだったのに、
今年の土は鍬が入って ちゃんと起こすことができるのだ。
すごいなぁ、すごいなぁ。
あの環境でもたくさん収穫できたこと自体もすごかったんだけど、
頑張って育った作物たちだけじゃなく、ここに自生していた宿根草たちも敷き草となって
みんなで土を育ててくれていたんだなぁ。

今日はありがたく去年収穫したジャガイモたちを植え付けした。
明日からは購入した野菜苗たちを順に植えていこう。
結局私には菜園作業が一番、初夏を実感できる時間なのかもしれないね。


posted by BERA at 22:04| Comment(2) | 厚田民生活 二巡目 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年05月13日

PC逝った?

ずっと不調ではあったのだ。
セキュリティソフトのアップデートができないとか、
PC使用中に長時間席を立つと何故か電源が落ちてしまうとか。
突然、PCの電源が入らなくなってしまった。

ダーリンのPCを借りて入力しているが、勝手が違って使いにくく、
キーボードの反応が違うので誤入力が多くてイライラする。
それにしても、色々一気にやってくるなぁ。
ダーリンの入院・手術を契機に、
あれやこれやが交換期・更新期を迎えるという怒涛のような押し寄せ方。

WEBでサクサクッと手続きしたいこと、検索したいことが多い時なのに、
使い慣れたPCが動かないとは。
あれ。前にもこんなことがあったような・・・。
移住した時だ!
水道ダメ、屋根ダメ、ボイラーダメ、インターネット回線不通。
先立つものがなくて途方に暮れたのも同じだったなぁ。

結局なんとかなってここまで来たのだ。
まぁ、今回もなんとかなるさ。
さてさて、今回はどうやって乗り切るのかな?


そんな訳で、しばらくブログの更新は疎遠になりそうだけど、
新しい体験はどんどん重ねつつ、私たちは元気にやっています。
ご心配なく!
ラベル:PC 故障 移住
posted by BERA at 09:10| Comment(2) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年05月06日

発足は一斉に春

漁師食堂のオーナーさんや、援農でお世話になっているチューリップの農家さん、
お隣の若夫婦に、退院の挨拶をする。
オーナーさんとチューリップ農家さんは、
今までいかに見えていないのかを目の当たりにしているので、
介助なしにひとりで歩く姿に、随分見えるようになったね、と喜んでくれた。

オーナーさんから、猫用の雑魚も含めて箱いっぱいの魚をいただき食べきれないので、
帰り道、大家族の飛ぶ鳥農場さんにお裾分けのため寄る。
こいのぼりがたなびいていた。
GWで元気に外遊びをしていたボーイズたちが寄ってきて、
「これ何?ホッケ?」「これ何ガレイ?」と興味津々だ。
特に次男君は魚をおろすのが好きなので、
「君がおろしたいのを好きなだけ選んでよ」と言うと、
皆でわいわい魚選びをして楽しい時間。
飛ぶ鳥農場さんもヤギや羊がハウスから外に出されていて、春を感じる。
駐車スペースの奥が耕されていて、農場移転と出産で超多忙だった去年と違い、
今年は畑もできるんだなぁと感慨深い。


あの見えていない状態でも おさんどんをしてくれていたダーリン、
「リハビリ、リハビリ」と言って、また おさんどんを担当してくれるという。
現状の体力でお店をオープンさせるのは時期尚早だが、やはりそれまでは
料理の勘処を維持したいらしいので、喜んで甘えることにした。
早速、いただいた魚捌きをお願いして私は外仕事の準備に出た。


今年はオオウバユリがあちこちに大増殖して花のようにキレイに葉を広げ出した。
250505 オオウバユリの葉.jpg
花壇のスイセンが花盛りだ。まだ開いていない蕾は、たしかクチベニスイセンのはずだ。
250505 花壇のスイセン.jpg
花壇から離れたところに自生している八重スイセンもカワイイ。
250505 自生の八重スイセン.jpg
その隣ではエゾエンゴサクと福寿草が花畑を作っている。
250505 エゾエンゴサク群生.jpg
冬は「僕たちのけもの道」で踏みしだかれていた場所もミツバが出てきた。
250505 ミツバ群生.jpg
自生の(もしかしたら元家主さんが栽培していた?)ギョウジャニンニクも。
250505 ギョウジャニンニク群生.jpg
おうちの周りはどこもかしこもツクシが群生している。
250505 ツクシ群生.jpg

裾野原野の沢も見に行ってみた。
おお、見頃の水芭蕉が。
250505 沢の水芭蕉.jpg
そして、明らかに去年より増殖している、たくさんのエゾノリュウキンカ(ヤチブキ)。
250505 エゾノリュウキンカ.jpg


今晩はツクシの卵とじ、ヤチブキのお浸し、ギョウジャニンニクの醤油漬けと
100%発足産の小鉢が並ぶ。
メインはいただいたカレイの煮付。これぞ真正厚田メシだ。
ダーリン、「厚田メシ、最高~! 発足のお米、最高~!」と叫ぶ。
3週間渇望していた厚田の味を満喫して、ダーリンのカラダも喜んでいるに違いない。

発足は一斉に春だ。やっと桜も咲いたよ。
250505 発足も桜の季節.jpg

posted by BERA at 10:26| Comment(2) | 厚田の風景 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年05月05日

原野散歩

退院したのは嬉しいが、実は大きく認識を間違っていたことがある。
「腫瘍を切除する」というのは私の中で できものを取るかのように
『悪くなった部分を切除する』と思っていたが、
『腫瘍化してしまった部位を切除する』ことだった。
要は、ダーリンは脳下垂体という器官を失った、ということだ。
脳下垂体は生命活動がうまくまわるようにホルモンを調節する器官で、
成長ホルモンを始めとする複数のホルモンの分泌と、
他の臓器からのホルモン分泌を補助しているため、
今後さまざまな全身症状が現れる可能性があるということ。
代謝が低下して骨や筋肉、コレステロール、体内の水分量など
あらゆることに影響が出るため薬で補っていかねばならならず、
体重や水分の管理に気をつけなければならない。
疲れやすくもなるだろうし筋力低下も今までとはレベルが違うのだろう。

今後はもっとカラダが喜ぶ食事にしたいし、
心地よく体力維持ができる方法で運動もしてもらいたい。
そんなことを漠然と考えていたのだが、
退院早々、「うちの原野を散歩したい」と言ってくれた。
そうだね、ゆっくりしたペースで、大好きな森を散歩するのは一番の案だ。
「一緒に行く、行く!」と外に繰り出した。


あれだけ雪が積もっていたのに、今はすっかり融けて、
冬越しで枯れた草と春に芽吹いた草とで まだらになった原野。
去年は殆ど見当たらなかった ふきのとうが、あちこちに顔を出していた。
まだ雪が残る入院前に、二人で採ったのは陽のあたる用水路沿いの斜面だったが、
この谷地っ気の強い原野にも出るようになったのか。
去年ダーリンがせっせと刈払機をかけたことで少し植生が変わっているんだな。
自生している八重スイセンも蕾を膨らませている。
ダーリンが笹を刈って作った、カラマツの小道も残っているが、
笹がこれから勢力拡大を狙っている様子で、また手入れが必要だ。
雪の重みや強風で折れた枝が散乱して、森の手入れだけでも相当手がかかりそう。

庭の様子も少し変わって来ていて、ブタナしか生えていないカッサカサの粘土質を
たくさんの草たちが覆い、コケが生えてきている場所もある。
草を刈って敷いた効果が確実に出てきているんだなぁ、と嬉しくなる。


ガサガサッ、と音がして振り向くと、笹の中から猫たちが飛び出してきた。
外遊びをしていた猫たちが、いつの間にか ついてきていた。
私達のところへ走り寄って来ては、脱兎のごとくまた別のところへ走り去って、
二匹で私達のまわりを回る衛星のように走り回る。
庭と原野を、二人と二匹で くるくる移動しながら植物観察するのは楽しい。
ここで味わいたいシアワセな日常とは、まさにこんな時間だ。

またガサガサっと音がして、猫たちかと思ったら、
猫より一回り、いや二回りくらい大柄なウサギが走って行った。
ねぇねが追いかけたが、ウサギの方がスピードが速く、
あっと言う間に原野の奥に走り去って行った。
あの子かなぁ、うちの去年の大豆を全滅させたのは。
「ちょっとした犬くらい大きいよ」と聞いていたけれど、あんなに大きかったのかぁ。


ちょいとぐるっと家の近所を回っただけだけれど、
入院していたダーリンにとっては少し息が上がるような散歩だった。
左目が失明しているので、距離感がわからなかったり、バランスが難しいようで
元気になったとは言っても今までと同じようにはいかないんだな、と
実感させられる散歩でもあった。
元に戻れるなんてハナから思ってはいなかったが、
こうして少しずつ、今までと違うことを確かめながら
できることを精いっぱい楽しんでいけばいいんだな、とかえって安心した。

大好きな発足の自然。これからもよろしくね。

posted by BERA at 10:14| Comment(2) | 厚田民生活 二巡目 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする